今日のお話。

つい最近、テレビに円楽(楽太郎)が出ていて、師匠の円楽についての話をしていました。
その話の中に『師匠は(落語家は、お客に話を聞いてもらわない事には育たない)とよく
言ってました。そんな考えがあったので、私財をはたき借金までして寄席を建てたんです』
という部分がありました。
『客が育てる』という事はよく聞きますが、意味をくだいた話しはなぜか聞いた事があり
ません。  それで、私はこんな解釈をしています。


舞台芸術全般に共通してますが、落語を例に挙げると、良い客というのは意識が舞台に集中
している客の事ですが、通常は100人の客がいれば、それぞれの思いは、ばらばらで100の
方向を向いている状況から話を始めなければなりません。

導入部は、お客の関心のある身近な話題で注意を引きつけ、本題に繋げていきます。
落語家は話を進めながら、ばらばらだった客の呼吸をそろえ、話に合わせて客の息づかいの
強弱や長さ等もコントロールしていきます。そうして、泣かせたり、笑わしたり、はらはら
させたり、真剣にさせたりと感情も手のひらに乗せてしまいます。しかし実際は思うように
はならず、高座を降りてから、客の反応を思い返して、何がいけなかったか、どうすればよ
いか等、精進を重ねて話を完成させていくのです。
つまり客は間接的に話の完成に協力し、落語家も育てているのです。